新緑も やわらかに
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


駆け足で桜が開花して、そのまま春めくかと思えば、
やっぱりかっという寒の戻りも押し寄せて。
早くも半袖を誘ったほどの陽気だったものが、
いやいや、まだまだ上着は要りますよと言わんばかり、
真冬並みの寒さが襲いもし。
結果として、何とも目まぐるしい春となってしまった感が。
朝晩と昼間の気温差が20度近い日もあるほどの、
乱高下とやらに振り回されている間にも、
暦は粛々と進んでいたものだから。
気がつけば、初夏の花々が順次お目見えを始めており、

 「西の校舎の脇で、ツツジが咲き始めておりましたわ。」
 「そうそう。ハリエンジュも陽あたりのいいところからvv」
 「藤棚も花房がたくさん下がりつつありますわよ?」

清かな風に揺れる可憐な姿が、
学園に集う乙女らの眸を楽しませておいで。
そんな瑞々しい若葉の萌える初夏を前にし、
お屋敷町の丘の上に鎮座まします、
生え抜きのお嬢様たちが通う 某女学園では…と言えば。
近々へと迫った連休の話題よりも、
もっとずっと胸を躍らせるお楽しみが待っており。

 「今年の女王様は誰かしらvv」
 「二年の綾之宮様かしら。」
 「三年の周防坂様かも知れなくてよ?」

白く乾いた石作りの野外音楽堂に、
光のモザイクみたいな木洩れ陽が躍る。
そんなGWの前半半ば、
五月の頭に催されるのが、
“五月祭り”という華やかなイベントで。
大地の女神へ豊饒を祈るという、
英国の古いお祭りを模したものが始まりだそうだが、
そういう建前はともかくとして、
在校生の皆様が最も関心を寄せているものはといや、

 五月の女王様には誰が選ばれるのか

イベントの最初、開幕を告げる戴冠式にて、
全校生徒に紹介され、
伝統のティアラを頭上に授かる ただ一人の女王様。
在校生たちによる投票で選ばれる、
学園一の美少女と言っても間違いない存在で。
新緑に映える純白のドレス姿で、
二人ほどの傍臣役を従え、
しずしずと学園内を行幸する。
幼い幼い幼稚舎からでさえ、
先々では選ばれたいという目標にしている子がいるほどに、
それは誉れな“お姫様”ポジションなのだけれど…

 近年、それへの評価が少しほどズレて来てもおり

他人を追い落としてまでその地位を得たいというよな、
何が何でも自分が自分がとなりふり構わないとする
一種ハングリーな風潮は昔からないし、
そこは今でも まま薄い。

 「ご両親が経営している会社のレセプションなんかで、
  既に王女様扱いを受けていらっしゃる方々も多いのでしょうし。」

 「そうなんでしょうねぇvv」

いいお日和の中、
いつもの定席であるスズカケの木陰でお弁当を広げ、
間近に迫った“五月祭り”のあれこれへ、
彼女らもまた それなりお忙しい三華様がたが、
周囲のさわさわした気配やお喋りへ、
苦笑交じりに感慨とやらをこぼしておいで。
いづれが春蘭秋菊かというほどに、
美少女だらけの女学園にあって、
一際目立つ存在とされておいでのこちらのお3人もまた、
女王とその隋臣という名誉ある大役は 既に受けておいでの身。
特に女王様の役を振られた七郎次の
当日の装いはそれはそれは麗しく。
絹糸のような金の髪を高々と結い上げ、
透けるような白いうなじを出し、
すんなりとした首や
鎖骨のくぼみも可憐なデコルテを見せてという、
いかにも清楚な少女による仮装は、
女王様というよりも
春をつかさどる女神様そのもののようでもあり。
さすがは旧華族様のお血筋と、
当時の在校生たちを全員
骨抜きにした伝説つきだったりもするのだが、

 「………vv(頷、頷vv)」

 「やだもう、久蔵殿 ウケ過ぎ。////////」

ウサちゃんフォークで捕まえた
栗の甘露煮をパクリとほお張りつつ、
うんうんと何度も何度も深々と頷く寡黙なお友達なのへ。
それだけで何と言っているのか十分通じるらしい白百合様が、
真白き頬を赤らめて、もうもうもうと含羞んで見せたれば。

 「まあ、草野様があんなに含羞まれてvv」
 「きっと紅ばら様が、こそりと何かお褒めになったのですわ。」

 “…おお、いい勘してますねvv”

 「寡黙な三木様ですもの、
  滅多になく何か言われたのなら、私だったら目眩いを起こすかも。」

 “?? 何でですか、そりゃ?”

 「以前、同じ班でお当番をしたおりに、
  名前を呼んでいただけたのですが、
  そのお声がまた、甘くて低くてもうもうお素敵でvv」

 「まあvv そうなのですか?」
 「うらやましいことvv 私も間近で聞いてみたいですvv」

 “物騒な文言でよけりゃあ、
  天誅とかどうとか 結構怒鳴ってますがね。”

二人の以心伝心へはさすがに慣れたひなげしさんが、
今では周囲からの勘違いへと苦笑をしていたりする始末。
一応、公平を帰してのことか、
一度でも女王や隋臣役に選ばれると、
その生徒らは候補から外されて、選ばれることはなくなるのだが、

 「つか、本来二年か三年が選ばれるのですから、
  そうそう連続して選ばれるはずは…。」
 「ですよねぇ。」

場外へ向いた視線がうっさいなぁ。(笑)
何度も何度も二年生のままなゆえの齟齬は
この際、あっさりとスルーしてくださいな。

 「というか、近年のこの五月祭りへの関心が
  微妙に女王様…ではない方へ逸れつつあるって話を
  仕掛かってませんでしたか?」

五郎兵衛さん特製の、
イカナゴやら明太子やらを握り込んだ
大きなおむすびを3つほど、
ペロリと平らげた豪傑の電脳小町。
そんな詳細を付け足してくださったものの、

 「まあ、それは…ねぇ。」

さすが察しのいいお人柄が出てだろう、
七郎次さんのほうが先に、
何とも言えない複雑そうなお顔をし。
それへと“??”と、
彼女にだけという限定で、
愛くるしい小型犬のように無邪気なお顔をして見せる紅ばらさんの
疑問符つきの小首傾げの態にほだされる格好。
あーうーと誤魔化しかけてた白百合さんが、
塗りのお箸をお弁当箱の手前、箸置き代わりの箸箱に戻すと、
んんんっと咳払いをして見せてから、

 「実は今年もこういうのが回って来ましてね。」

お弁当箱を入れて来た巾着袋から引っ張り出したのが、
4つに畳まれたコピー用紙、約1枚。
何だ何だと首を伸ばして覗き込んだ久蔵さんだったが、
反対側から同じように見やった平八が
“うっ”と先に言葉に詰まった気配がもっと気になり、

 「???」

何なになぁに?と眉を寄せての怪訝そうな
(と判るのはやはり白百合様だけだったが、)
お顔になったのへと向かい合い、

 「私どもの女王様や隋臣役のお姿が見られないなら その代わりという、
  皆様からの切なる陳情が、
  女王候補への投票以上に実行委員会へ届いたそうなので。」

 「…。」

 「ええ。今年も、ですよ。」

確か、最初の“翌年”は
久蔵さんだけが女王様を護衛する騎士の役というコスプレをし、
その後の“翌年”は、
七郎次さんも同じ格好をすることというのが
久蔵さんからの条件になっており。
フリンジつきの肩章や胸章を組紐でつないだ華麗さもお馴染みの、
ウエストカットの詰め襟上着に、スリムなシルエットのパンツ姿。
一応はマントと羽根つき帽子も小道具としてまとった格好の、
それは凛々しい騎士役を請け負わされて来たのだけれど。

 “そして、そんなおまけというかご褒美が付くのならと、
  微妙に女王様役への株も、上がっているとかいないとか。”

ひなげしさんがこそりと集計した統計によれば、
イマドキのお嬢様がたにあっては
そういうの面倒臭いなぁと思う傾向も
無きにしもあらず状態だったようでございます。(笑)
そんな不人気を、まずはご本人が なって見せて盛り上げ、
続いては、エスコートしますよと持ってって
やはり盛り上げている三華様がたで。

 「……で、今年は私も参加なのですね。」
 「ええ。題して“三銃士”なのだとか。」

なんで私まで、と、
綺麗さん方面へは傍観者ポジションだと決めつけていたらしい
ひなげしさんこと平八が憤然として見せれば、

 「隋臣役の二人へ
  それぞれ付かなきゃ不公平だってところじゃないですかね。」

応じた白百合さんこと七郎次がやや眇めた眼差しを向けたのは、
そやって自分だけ逃げるなんて狡いとでも言いたいものか。

 ヘイさんだけが見物に回ってるなんて
 私たちへも不公平ってもんですしね。

 あ、言いましたね。
 私がフリーでいたればこそ、
 シチさんの艶姿を録画して
 勘兵衛さんにもお見せ出来たってのに。

 それも余計なお世話です。/////////

そんな内容の言い合いになってるお友達二人なのへ、

 「……。」

何だかんだ言ってても、結局は引き受けるのだし、
やるとなったら、
見栄えの良いようにと衣装に工夫を凝らしの、
所作や作法を一通り浚いのと、
落ち度がないよう、頑張りもする七郎次であり。
録画担当と言いはしたが、
そんな平八にしたって、
そうそう、いつぞや乱入者があったおりは、
証拠になる映像だと、収録もこなしつつ、
久蔵へ得物を寄越しもした徹底ぶりではなかったか、と。
一通りの不満を並べるお友達二人を、
達観して見守る 紅胡蝶様だったりしたそうで。


  良いお日和になると良いですね、ゴールデンウィークvv





   〜Fine〜  15.04.26.


  *何だか忙しさに揉まれております。
   確か昨年は、ゴールデンウィークを境に暇になったのですが、
   今年もそうなのか、それを目がけての忙しさなんでしょか。
   とりあえず、この時期と言えばのすったもんだを一席。
   ホント、何度目の“五月祭り”なんでしょうねぇ。(笑)

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